脊椎と雨音

詩人になりたい人の詩たち

たそがれどき

黄昏時は誰そ彼ときあそこにいるのは誰だろか夕立のあとの曇った視界にゆらりゆらりと人の影さ迷っている幽霊だろか宵の淵で揺らぐのは自分の輪郭おぼろげにきっと忘れていくのだろうそして向こうへ行くのだろうあれは一体誰だったかくるりと振り向くその顔…

未完の物語

世の中には未完の物語の方が多いのだ物語を紡ぐことに疲れてしまった人諦めてしまった人やめざるを得なかった人そんな人たちの物語が無数に存在する中で完成させるばかりが良いわけじゃないその道を辿ろうと思った軌跡物語がはじめられたことそのことはきっ…

終極

はじまりは終わりなのですあなたが生まれたとき あなたのいない世界が終わったあなたという存在が何かを観測するたび観測前の世界が終わって新しい世界がはじまっているだから終わりははじまりなのですあなたが死ぬとき あなたがいた世界が終わった (ランキ…

棺桶

夜は好きだ遮光カーテンを締め切り照明を全て消してこの家にアナログ時計はない秒針の音は響かずでき得る限りの静寂が用意されている暗順応した瞳が部屋の中を見回す自分の部屋のようで自分の部屋でない深呼吸をすれば浮遊感に包まれるここは大きな棺桶だ毎…

スマホ

スマホの画面を滑る指予測変換はいつも的外れイマイチな言葉を並べながらそれでもこの情景を並べて加えて見せつけて文章を編んでは置いていくそれが私にできること生きているその証 (ランキングに参加しています。よければ応援お願いいたします。)

君の爪

きらりと光る君の爪が視界に入って僕は思わず目をつぶった輝いていて眩しくて君の爪は夜空の一等星のように輝くために磨かれていた僕の視線に気づいた君がなに? と首を傾げたけれど僕は何と言っていいかわからずなんでもない と君の爪の輝きを忘れないよう…

回復薬

あたまがいたいと彼女が言うから薬を飲んでと促したそれはいやだと彼女は言うからどうしてなんだいと問いかけた 頭の痛みは心の痛み傷口のない傷が信号を発し私に訴えかけてくる私はそれを受け止めるべきだたとえ傷口がなかろうともそれは傷だと認識すべきだ…

三角定規

三角定規は嫌いだと君は言った。どうして?と聞くと真ん中の穴から幽霊が見えてしまうからだそうだ。覗かなければいいんじゃない?そう言うとそれでもだめと言う。ノートに置いたそのときに、穴から目玉が見えるらしい。僕は穴から世界を覗いてみた。危ない…

糸雨

天と地が細い糸で繋がっている小さな音が編まれて世界に響いているそろそろその糸は綿になるでしょう音もなく地に落ちはじめるでしょうあるいはビーズになるでしょう硬い音を立てて落ちてくるでしょう手芸と音楽が合わさった空と大地の共同作品 (ランキング…

石になりたいのかもしれなかった道端の小石でも河川敷の水切り石でもいいでもできれば海へと続く河口の水圧で転がされたい硬く 硬く目も耳も口も閉じて陽の光と雨と風にさらされ自然というものを感じていたい (ランキングに参加しています。よければ応援お…

仕草

君のその仕草がきれいでいつも見とれてしまう手から指先までのしなやかなカーブ鼻から顎までのシャープなラインうなじから肩までのなだらかな下線つんと澄ました顔でするりと髪をかきあげ首を傾げる曲線美の連鎖 (ランキングに参加しています。よければ応援…

新年

子供の頃の大晦日は私にとって特別なものでしただって日付が変わるまで起きていることを許されていたから大人になって夜更かしが普通になって日付が変わるまで起きていることなど珍しくなくなったけど大晦日の夜更かしは未だ新年を待つ街の雰囲気のせいか何…

電子の海と雨音

雨音が零れて脊椎流れてくはらはらと舞う雪素肌を撫でてゆきワイパーを上げた車の白化粧花嫁を乗せ馬車となり走りつつたてがみの靡く風との風鳴よ飼い犬の遠吠え夜月に吸い込まれ星空の散らばる欠片拾い上げ炭酸の中に沈めて飲み干せば喉を焼く胃液の酸の熱…

生の音

ゴロゴロと鳴るお腹の音を他人のように聞いていた生きたいという私の声私はそれを無視したい体と心は別物だ私は停止を願うのに体は再生を求めている仰向けになった部屋にひとり無防備に毛布にくるまって胎内で眠る赤ちゃんのようにこんこんと眠り続けたい誰…

生きる

剥き出しのナイフひとつで世界へ立ち向き合うのだ私達はただ個で孤で唯一見えるものは自分の世界だ神すら敵すら自分のもの それは有刺鉄線で守られたまるで柔らかな鳥の巣のようそこに御座すは天使か悪魔かどちらにもなれる卵がひとつ 子犬の舐めるミルクの…

雪が降る頃

舞い散る枯れ葉が白い雪に変わる頃お元気ですか風邪など引かれていませんか粉雪が牡丹雪に変わるのを見てふとあなたのことを思い出しました積もりそうにない粒子状の氷は溶けるより早く多くくっついて冷たい土台を作りますその上に大きく柔らかなわたあめの…

ホワイトクリスマス

聖なる夜に降る雪は街灯の明かりで照らされてキラキラ光って舞っているそれはきっと天使の羽地上に祝福しに来た者の散らした少しの忘れもの少しが積もってたくさんになり街を白く染め上げたのなら明るい夜のできあがり雪に埋もれたプレゼントを探しておいで …

失った世界

春に紅葉 夏に降雪 秋に桜 冬にたんぽぽ君を失った世界は狂ってしまった僕があのとき引き留めていればこんなことにはならなかったのに怖かったんだ 失うのが君も 世界も どっちも欲しいそんなワガママで 君はいなくなり世界は崩壊へと歩みを進めていく (ラ…

ウェアラブルデバイス

こちらの体調のしんどさなどお構いなくウェアラブルデバイスは定期的に運動を促してくる余計なお世話だ私は無駄に飲み込んでしまう空気と無意識に食いしばってしまう奥歯と頭の奥から響いてくる鈍痛とそれらをどうにかしてやりすごそうと一生懸命なのだ運動…

そして、息をする

忙しい日々は呼吸することを忘れてしまいそうになるほどだ息抜きというがその時間さえ満足に酸素を吸えてないそして夜になって息苦しくなってそこでようやく息を吸うお腹が 胸が 膨らむ呼吸をしている明日は息をしよういつもそう思っていつも忘れている (ラ…

そんな日

今日は晴れていて散歩をした今日は曇っていて換気をした今日は雨が降っていて憂鬱だった 今日は天井を突き抜けて女の子が落ちてきた天井どうしようとか警察に行くべきかとか考えてとりあえず女の子に私は熱いコーヒーを入れた そんな夢を見たそんな日 (ラン…

冬の寒さ

気づけば冬になっていた水道の水が冷たくなり唇が乾燥しカサカサになり体に力がこもって肩こりになりそれでも僕は冬に気づいていなかった鼻水が出て咳が出て頭痛がしてやっと気づいた寒さは僕を覆っていた毛布を被っても寒さはその下に入り込んで僕の体を冷…

空気の軽さ

冷たい空気はとても軽いだから空気が冷たい季節はみんな着込んで厚着して重さのバランスをとるんだね夏は熱くて重いから薄着でみんな過ごしている冬は冷たくて軽いから飛んでいかないよう重くしてそうしてみんな雲の下地面を歩けているんだね (ランキングに…

冬の手紙

街に暖色が増えるのは寒い季節だからなのだろうね自然の木々さえ紅や橙に葉を染めて冷えていく街を暖めようとしているけれどその努力虚しく葉はもぎとられてやがて街は白く染められてしまう吐く息の色すら染められて私達は寒さに抗えないかじかんだ手に白い…

目薬

瞼が下りたがっているとき目は休みたがっている目薬を一滴注いでやるとじんわりと冷たさが眼球を覆い少しばかりすっきりとする目を瞑って開ければ少しばかり明るくなった気がする視界目薬をさすだけで世界が明るくなるのなら夜も怖くなくなるはずだ (ランキ…

冬の不思議

ほうと息を吐けば白く染まり自分が生きていることを自覚させられる己の体温で温まった空気外気に晒されればすぐに冷えて透明になるけれど私の体はどれだけ冷えても透明にならない宙に溶けて消えていかない白い雪の上に続く足跡私が歩いてきた証冬は不思議だ…

恋煩い

目が合っただけで胸が詰まって声を聞けば脳が蕩けそうになって触れればそこが熱を持ってひとりでいると思考がいっぱいになって恋煩いとはかく或るべきかその想いは口に出そうとも減るどころか増していくばかりたった二文字あるいは五文字の言葉の内部に内包…

年の終わり

スーパーはもうクリスマスを通り越して正月気分でシャンメリーと鏡餅が並んで売っている今年ももうすぐ終わるのだ終わりは新たなはじまりでしかない私たちはいつも何かを終わらせているずっとその繰り返しその繰り返しもいつか終わる私たちは終わりに向かっ…

そば

湯気が立ちのぼる器の中食欲をそそる香りが混じる蕎麦の上にはネギとゆず皮においをかげばよりお腹が空いて割り箸をパキンと割ってそっと蕎麦をすくうまとった蒸気もまとめて吸えば口内に広がる幸せの味 (ランキングに参加しています。よければ応援お願いい…

冬が来た

こぽこぽとお湯の沸騰する音がする蒸気口から湧き出る蒸気は真っ白で部屋の寒さを物語っている私はティーバッグの包みを開けてマグカップにティーバッグを入れたもうすでにお茶の良い香りがするそこにお湯を注いでふーふーと息を吹きかけると白い蒸気が顔に…