脊椎と雨音

詩人になりたい人の詩たち

ガラクタ倉庫

ラクタ倉庫の中にひとり少年が住んでいるのを私は知っていた
ラクタが積み重なり幾重にも層を成しているその倉庫の中は
あまりにも乱雑に入れられているので余白がたくさんあったのだ
少年はその余白の中に住んでいて
時折その隙間から外の様子を窺っていた
倉庫の前を通りかかるときふと目をやると
砂埃で曇っているガラス窓の向こうにちらりと目が合う
すると少年はすぐに頭を引っ込めてしまう
けれど倉庫の前を通るたび少年と目が合うものだから
私は勝手に少年との距離が縮まっている気がしていた

ある日倉庫の前に数人の男達が立っていた
倉庫の周りをうろうろと歩き
入り口を開けられるだけ開けて隙間から中を覗いていた
私は少年が彼らに見つかってしまうのではないだろうかと心配になったが
私にできることなど何もなかった

彼らは工事会社の人達らしかった
翌週から重機が倉庫の傍に立ち
トラックにどんどんガラクタ達が積み上げられていった
ああ、崩されていく
少年の城が、崩されていく
あの少年は大丈夫だろうか
あの少年はどうしているだろうか
私は一瞬彼らに尋ねようかと思ったが
頭がおかしい女と思われる気がしてできなかった

倉庫の中身は一週間も経たずに空っぽになり取り壊しが始まった
あっという間に余白が空白になってゆく
少年の居場所が縮小してゆく
余白は余白でなければならない
空白ではいけないのだ
私は倉庫の前に来ると歩みを遅くし
じっくりとガラクタ倉庫だったものを観察した

ふと目線を感じたのでどこからだろうと視線を振ると
トラックに積み上げられたガラクタの隙間からだった
あの少年だった
彼はガラクタの隙間にずっといて
彼がいられる余白はまだあった
私はそのことに安堵した

翌日にはトラックもなくなってそこは更地になっていた
少年はどこかへ引っ越していった


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