青信号
歩行者信号の青色は勿忘草の香りがする。けれど雨の日のそれは遅れた葉桜の色。点滅は雨音に合わせて手を叩き、メロディとは違うテンポを刻む。私はその中を歩いていく。傘はどこかへ流れ行ってしまった。雨は私の血液になりたがっているかのように私に張り付いてくる。
雨の温度。それは黒い雨雲の体温であり世界のなみだ。今もどこかで誰かは泣いている。必ず。雨は代わりには泣いてくれない。共振して世界のどこかになみだの代わりの濁った水滴を落とし、その水滴は人体になりたがる。透明な雫である涙に憧れて。
草木野花と地層で濾過され限りなく透明に近づいてやっと彼らは人に近づける。だから私は体にこびりついた雨粒を乱暴に払い落とす。君たちにはまだ早いよ。世界をもう一周しておいで。そしたら私の涙にしてあげないこともない。