脊椎と雨音

詩人になりたい人の詩たち

ころされる

ころされるかもしれない、と思ったことがある。
それは誰でもない、私自身にだ。
どうやって私を殺すのか。
絞殺か毒殺か殴殺か。
階段の上から突き落とされるかもしれない。
だから階段を歩くのが怖かった。
寝てる間に首を絞められるかもしれない。
だから眠るのがこわかった。

そんな妄想に取り憑かれていた。
強迫観念のような殺意。
それは私を取り囲んでいた。
逃げようにも逃げられない。
私はずっと怯え恐れていた。
あんなに死にたがっていたくせに。
殺されたかったことだってあるのに。
私は私に殺されたくなかった。

あのときの殺意は私の皮を被った何かだったのだ。
あれは私ではなかった。
ふわふわと漂いながら私を弄ぶ。
あれは私ではなかった。
だって本当に私だったら
私は私と心中していたはずだ。

 


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頭痛薬

愚鈍の気配をまとって頭痛はやってくる。
頭が痛い。
それは低気圧を引き起こし空気を対流させ空に滝をつくる。
頭が痛い。
冬なのに蝉が、鈴虫が、蛙が同時に騒ぎ出し私の鼓膜を刺激する。
頭が痛い。
透明なくせに一丁前に体重を持った背後霊が私の肩を圧迫する。
頭が痛い。
分厚い空気の壁が私の肺を挟んで押し潰そうとしている。
頭が痛い。
文字をなぞる指は震え未知の言語を描いている。
頭が痛い。

白い錠剤を2粒、私は大量の水とともに胃に流し込む。
それは私の体内で溶け血液に混じり痛みとともに蝉と鈴虫と背後霊を追い払い空気を柔らかくし未知の言語を訳してくれる。
頭が痛い。
それは世界と共振しているから。
私は世界の一部になど、なりたくはないのに。

 


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エナジードリンク

エナジードリンクには誰かの元気がつまっている。誰かが飲めば誰かが元気を失う。元気は循環している。魂のように。水のように。空気のように。私の隣の人が飲んだ。私の斜め向かいの人が眠った。隣の人は元気に電車の扉をくぐり、斜め向かいの人は二駅後で慌てて降りていった。

エナジードリンクには誰かの元気がつまっている。誰かが飲めば誰かが元気を失う。元気は循環している。魂のように。水のように。空気のように。私の隣の人が飲んだ。私の斜め向かいの人が眠った。隣の人は元気に電車の扉をくぐり、斜め向かいの人は二駅後で慌てて降りていった。

もし無理になったときはエナジードリンクには頼らずに友達に頼むよ。傍にいてくれる人に頼むよ。そしてきちんとお返しするよ。君の元気がエナジードリンクだったとしても、君の体を通したものなら許すよ。

 


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匂い

太陽の日差しの色は熱された樹木から滲み出る樹液のようなもので、それを必要とする虫達のように私達はそれを食べなければいけない。舌にのせた瞬間に広がる灯の味はどうも鼻について好きじゃない。目から皮膚から入ってくるねっとりとしたその感触がどうにも居心地が悪くてしょうがない。

曇の日はまだましだ。薄暗さが醸し出す安心感とそれに付随する無味無臭。まるで虚無のような風が吹き抜ける一番体が軽い日。でもそれは紙一重に雨という重い日になる可能性を持っていて、アスファルトの焦げる匂いや草木の維管束の匂いがしてきたらそこは空から無数に放たれる鏡に占拠される。

小さな雨粒は鏡像を映している。 水滴に映り込む無数の私。その数だけ、次元があって、その数だけ、世界があって、その数だけ、私がいる。無数の私が私を見ている。ときに苦くときに不味くときに渋くときに辛く。きっと多分それが本当の私。本当の私の味覚。

 


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基底現実

基底現実を基底足らしめるものは多分皆が思っているより多いけど少ない。そこに含まれるのは天気。でも仮想現実にも存在する。そこに存在するのは猫。でも拡張現実にも存在する。そこに存在するのは電柱。でも代替現実にも存在する。そこに存在するのは声。でも複合現実にも存在する。

拡張現実にも存在するものが基底現実なのだからそれは基底なのだ。それがなければ何もない。現実に続く現実でない場所にはなにもない。いや元からないのだそんなもの。現実はひとつしかない。ただそれが、人によって細かく分類されているだけで。

だからそこにない味や匂いを求めるのだ。そこにあるのはただの空気のような何か。虚無に近しい物体X。それはつまり無限であり夢幻であるということ。その人が手に入れられる最小値であり最大値。現実はひとつしかない。自覚しろ。

 


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